大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(う)2559号 決定

主文

本件公訴を棄却する。

理由

記録を調査すると、被告人に対する本件公訴の提起は、千葉地方検察庁検察官検事黒崎兼作成名義にかかる昭和四七年一二月一九日付起訴状の提出により千葉地方裁判所に対し同日なされたところ、同裁判所は同四八年二月一三日に初めて被告人の肩書住居にあてて被告人に対する起訴状謄本及び弁護人選任に関する通知書につき郵便による特別送達の方法をとったが、右郵便は被告人が不在で配達できないとの理由によりその後所轄郵便局より同裁判所に還付されたこと、同裁判所は公訴の提起があった日より二箇月以内に起訴状の謄本が送達されなかったのに、検察官に対し刑事訴訟規則第一七六条第二項所定の通知をすることがないまま、同月二七日に至って更に被告人に対する起訴状謄本及び弁護人選任に関する通知書の送達手続を採り、右起訴状謄本等は同年三月二日「浦安町堀江三二三」を送達の場所として被告人に送達されたこと、同裁判所においては、被告人に対する起訴状の謄本が公訴の提起があった日から二箇月以内に送達されなかったことを看過して、同年五月一〇日の第一回公判期日から同年九月一三日の第四回公判期日に至るまで弁護人も出頭して事件の実体につき審理を重ねたうえ、同月二八日の第五回公判期日に「被告人を禁錮八月に処する。訴訟費用は全部被告人の負担とする」旨の有罪判決の言渡をしたことが明らかである。

してみると、原審は刑事訴訟法第三三九条第一項第一号、第二七一条第二項により公訴の提起が効力を失ったとしてすみやかに決定で本件公訴を棄却すべきであったのに、これを看過して不法に公訴棄却の決定をしなかったものというほかはないから、同法第四〇三条第一項により本件公訴を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 龍岡資久 裁判官 西村法 福嶋登)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例